而今・十四代が定価で買える店
日本酒雑記

岐阜の日本酒 杉原酒造(射美)で購入した千代乃花

岐阜県と言えば何が思い浮かぶでしょうか?私にとって岐阜県といえば射美です。射美を造っている杉原酒造があります。射美は「いび」と読みます。いびで変換しても揖斐しか出ません。この名前の由来は二つあるそうです。一つは酒蔵のある岐阜県揖斐郡大野町の「揖斐」もう一つは「美酒を射る」という意味も込められているそうです。

岐阜には射美だけではなく百春もあります。百春の中には、花陽浴にとてもよく似た味わいの銘柄があって、3年前初めて飲んだ時から気になっています。その時は何種類か飲んで、そのうちのどれかが花陽浴に良く似ていて、どれかは全く似ていませんでした。いずれ記憶を掘り起こそうと思っています。

そんな岐阜県産の日本酒ですが、ある時「そうだ!岐阜へ行こう!」と思い立ちまして、杉原酒造と小売部の富久屋に行ってみました。

日本一小さな酒蔵 杉原酒造

蔵への道のりは簡単です。岐阜駅からほぼ一直線に西へ向かっていきます。目の前に山が見えますのでそれを目標にして行きます。40分程度走ると揖斐郡大野町に到達します。そのうちに「日本一小さな酒蔵」という看板が右手に見えてきます。それを通り過ぎてから右折して住宅街の小道を引き返すように入っていきます。

ここは住宅地です。こんなところに酒蔵があるの?と思いながら道を進むと蔵が見えてきます。左手に酒蔵、右手に歴史を感じさせるビルがあります。そのビルの手前は駐車場になっています。ここは駐車してもいいのかな?とビルをよく見てみると、富久屋の記載があります。駐車しても大丈夫なようです。念のために申し上げますと、富久屋で射美は売っていません。

杉原酒造小売部 富久屋

店の中には冷蔵庫が置いてあり、杉原酒造の別銘柄が並んでいました。射美は生産量が少ないのでシーズンは早めに終わります。この時はまだシーズン中でしたので、購入する時のために私が把握していない特約店を聞いておこうと思い店の方に尋ねてみました。そうすると特約店の一覧を見せてくれたのですが、その場で暗記できるほどしかありません。これだけしかないの?と驚きました。しかし私が知っている特約店でそこに載ってい無い店もあります。その一覧を作った時に比べて恐らく販路が広がっているのだろうと思われます。

色々お話しを伺っていると別銘柄を勧められました。射美とは別タンクで作られている酒で、同じ造りということです。富久屋でしか売っていないということでしたので、せっかくですから購入しました。その際に親切なことに蔵を紹介した動画の入ったDVDを頂きました。酒蔵は当然見学するつもりもなく、外から眺めるだけで満足です。

DVDの内容

大垣ケーブルテレビが1年間密着取材をした2017年放送のドキュメンタリー番組「日本一小さな酒蔵2」と「蔵元の肴」という番組でした。このドキュメンタリーはパート2です。これがなかなか深い内容で、動画を紹介できないものかなと思ってネット上で動画を検索したのですがありません。2012年放送のパート1は出てきます。こちらの放送を見ると射美の原点がわかります。

youtube 「日本一小さな酒蔵パート1」はこちら 14分56秒

興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか?この二つの番組を見ると、蔵見学をするよりも杉原酒造の酒造りがよく分かります。動画がないのでパート2の内容を要約してみます。

日本一小さな酒蔵パート2 内容要約

2012年12月に放送された「日本一小さな酒蔵」は射美の原点と、東京進出の内容でした。パート2は海外進出がテーマになっています。また28BYは様々な銘柄の酒の味が例年に比べて落ちていたように感じましたが、その不出来について取り上げられていました。

海外進出に向けての取組

  • 韓国の飲食店の集まりで射美の試飲会を行う。ソウルの10軒のお店に射美をおいて貰えた。(2015年)
  • 蔵元にヨーロッパのバイヤーが訪れる。ソムリエから今すぐ600本欲しいと言われるほど評価される。
  • ロンドンの日本酒のPRイベントに招待される。
  • ロンドンのイベントに招待してくれた商社からは生産量を増やすべきだとアドバイスされる。
  • 東京の特約店では、生産量を確保してから海外に売るべきで、それも海外分は少量にして国内での需要に応えてみてはどうかとアドバイスを受ける。

海外へ販売しようと思ったら設備投資と人材確保をしないと国内も含めて販売量が確保できないという事実に直面する。

杉原酒造の現状(2017年の放送当時)

人材
  • 造り手はご両親とパートさんを含めて4人。
  • 人手が足りなくて6月になっても、冬から始めた酒の仕込みが終わらない。
  • 蔵に空調が無いので6月に製造しているようでは味に影響が出る可能性がある。
  • 高齢のご両親は体力的に厳しいこともあり引退を考えている。
設備
  • 温度管理ができない古いタンクが二つしかない。
  • 蔵の中に空調設備が無い。
経営状況
  • 酒が売れない時代からの借入金が5000万以上残っている。
  • 温度管理ができる最新のタンクを500万で買う計画があり国に補助金を申請していたが却下される。
  • そのため、増石(増産)のための設備投資のアテが無くなった。

海外進出は2017年の時点では諦めざるを得なかったようです。
社長は生産量を年毎に倍々で増やして行きたいと考えていますが、経営コンサルタントからはあと5年頑張って現状が維持できれば借入金が半分になるので、それまでは飛躍に備えて今のままで我慢をした方が良いとのアドバイスを受けていました。杉原酒造が転機を迎えるのは2021年になるのでしょうか?

28BYの仕込み時の不具合

  • 醪(もろみ)の段階でいつもと変わった香りがして異変に気がついた。
  • 心白が硬く、麹が溶かしきれなかった。
  • 香りや味わいなどの本来のポテンシャルを引き出せなかった
  • 米の吸水のための時間を長く取り、例年よりもじっくり蒸す必要があった。

※原因を突き止め対策をされていました。

参考資料

杉原酒造生産量
年間生産量(1石=一升瓶100本)一升=1,800ml
2012年 20石
2013年 40石
2014年 60石
2015年 80石
他の酒蔵の生産量
  • 八海山 20,000石
  • 十四代 2,000石
  • 鍋島 400石

感想

日本醸造協会で杉原社長の講演を撮影したシーンがありました。その話の中で印象的だったのが、5代目が酒を造り始めた時に地元の店に射美を置いて貰えないか頼んで回ったそうです。しかしどこも相手にしてくれなくて、とある店舗だけが、頑張ってるのだから買ってあげると言ってくれたそうです。優しいですね。しかし一本だけ買ってあげると言われたそうです。杉原酒造の教科書通りの酒造というのは伝統や経験を重んじる地元では評価されなかったそうです。

その後社長は東京の酒屋に持って行って置いて貰えるようになったそうです。そこで置いて貰えなかったら酒造はやめるつもりだったそうです。今人気の酒蔵はそんなエピソードが多いですね。中には可能性があるのにも関わらず、人知れず廃業した蔵もありそうな気がします。

酒が不出来だった件は、当時射美以外の別の銘柄を飲んでいる時に感じていました。前年に比べると明らかに味が劣っていたのです。その時特約店の店員さんに聞くと、今年は米が硬いので溶けにくい。それが味に影響しているということを言っていました。それがこのことで、杉原酒造でも同じことがあったんだなと改めて理解しました。

蔵はもっと酒を造りたいと思っているけれども、条件が整わないというのは非常に残念です。クラウドファウンディングはどうでしょうかね?makuakeを見ていると日本酒の企画が数多く実施されています。資金の調達の仕方も多様になりつつあるなか、なんとかならないものかなと感じたドキュメンタリーでした。

射美は入手困難

せっかくですので近所の特約店を回ってみました。富久屋の方によると「二日前に出荷したからもう売り切れていると思う」とおっしゃっていました。やはり地元でも人気ですね。案の定紹介してもらった店は売り切れでした。

千代乃光 特別純米 しぼりたて

肝心なのは買った酒の味で、千代乃光はいかがなものかということで飲んでみました。

千代乃光 特別純米 しぼりたて 仕様

  • 特別純米
  • 酒米 岐阜産米100%
  • 精米歩合60%
  • 720ml 1,690円 税別

射美との味の違い

飲み比べていないので分かりません。
しかし私はこの酒は好きです。甘みが穏やかでキレが良く、旨味が濃厚です。
4.5年前に初めて射美を飲んだ時は、これは甘すぎてベタベタしていて合わないなと、私は感じました。クセが強くて飲めないなと思ったのですが、一昨年と昨年に久しぶり射美を飲むと全くそんな感じはしませんでした。今回飲んだ千代乃花も同様に変なクセの無い美味しい酒です。

射美より買いやすい

富久屋限定ですが、「射美が好きだけれど中々買えない」という方に千代乃花をおすすめします。私は射美は買いにくいので今後は千代乃花を買おうかなと思っています。限定品を追いかけていくのなら射美を買わないといけませんが、杉原酒造が造るスタンダードな日本酒がいいのであれば、買いやすいですし千代乃花がいいのではないでしょうか。安易に勧めると普段買っている方に迷惑がかかるのかなとも思いましたが、このブログはさほど読まれていませんので問題無いでしょう。バンバン売れて稼いで頂ければいいなと思います。